BASSMAN®の歴史:低音の美学
FENDERのPRECISION BASS®が生んだ代表的アンプ
Leo Fenderが1950年〜51年にかけて開発した世界初となるソリッドボディの商用エレキベースが、PRECISION BASSです。それまでは、ソリッドボディのエレキベースというものがこの世に存在していませんでした。そのため1951年時点では、ベースギター専用のパワフルで信頼性の高いアンプもありませんでした。
1951年11月、新たに開発された革新的なPRECISION BASSと共に店頭に並んだのは、FENDERの1×15インチのテレビ型プロ仕様ギターアンプでした。
当時Leo Fenderと彼のスタッフは、PRECISION BASSに最適な1×15インチの新たなテレビ型ベース用アンプの開発に取り組んでいました。しかしその新しいアンプは1952年まで日の目を見ず、店頭に並んだ際のポップには単に“アンプリファイア(Amplifier)”とだけ表示されていました。それから間もなく、FENDERの販売責任者Don Randallがユニークな商品名を思い付きました。それが“BASSMAN®”です。当時はRandallがFENDERのすべての製品名称を考案していました。ただしPRECISION BASSだけはLeo自身が名付け親でした。
1952年に登場したFENDERオリジナルのテレビ型アンプBASSMANは、上部コントロールパネルに2つのコントロール・ノブ(ボリュームとトーン)と2つの入力端子が配置され、銅板彫刻が施されたスチール製のシャーシには、このアンプ用に特別に開発したJensen P15Nスピーカーが組み込まれていました。FENDERアンプとしては初めて背面も塞いだ密閉型を採用。2つの大きな丸型ポートを配置し、低音をより強調する作りになっています。最初にPRECISION BASSと一緒に店頭に並べられた1×15インチのアンプは、当時のFENDERギターアンプ同様、背面がオープンのタイプでした。
オリジナルのBASSMANはソリッドでパワフル、かつラウドなサウンドを実現しました。ギター専門家のGeorge Gruhnは、著名なギター歴史家Tom Wheelerの著作『The Soul of Tone: Celebrating 60 Years of Fender Amps』の言葉を引用し、“Leo Fenderは世界で初めてベースアンプと呼べるものを開発した”と評しています。
FENDER創業から最初の数十年間、FENDERアンプの開発は革新的に飛躍しました。FENDERは1952年夏までにテレビ型アンプを段階的に廃止し、ワイドパネルのデザインに切り替えていきましたが、BASSMANも例外ではありませんでした。1953年にはワイドパネル型のBASSMAN(モデル:5B6)が登場しましたが、その性能はテレビ型の前モデルと機能的には同等でした。当時FENDERは、そのモデルをベース専用アンプとして売り出し、カタログにも「ギターアンプの焼き直しではないベース専用に開発されたモデル」と表記していました。
しかし、多くのミュージシャンたちは、このアンプがギターやハーモニカ用のアンプとしても良いサウンドを得られることに気づきました。FENDERもその点に着目し、ベース専用モデルと宣伝することを止めました。1953年〜56年に登場した短命のワイドパネル型5B6モデルに魅了されたギタリストたちは、次の進化版モデルにも度肝を抜かれたことでしょう。
FENDERはワイドパネル型に代わるモデルとして、ナローパネル型モデルの開発に着手しました。1954年後半に発表された1955年モデルでは、キャビネットを小型化し、グリル部分が拡張されています。それまでLeo Fenderと彼のスタッフたちは、カリフォルニア州フラートンの本社で、「5B6モデルは低音の調整が十分でなく、1×15インチのスピーカーは壊れやすい」というユーザーからのクレームを耳にしていました。
1954年秋、FENDERはBASSMANアンプのデザインを見直し、10インチ・スピーカーを4本搭載したナローパネル型の5D6モデルを発表しました。青色をした4本の10インチJensen P10-Rスピーカーにより、40ワットの出力を実現しました。FENDERは、このモデルもベースプレイヤーだけでなくギタープレイヤーにも受けるであろうことを目論んで、“normal”と“bright”の2つの入力端子のみを実装しました。1955年2月のカタログには、「ベースギター用に設計されたモデルでありながら、その他の楽器でも素晴らしいサウンドを実現する」と表記されていました。
1955年に発表された新しいナローパネル型のモデルには、“bass”、“treble”、“presence”とコントロール・ノブも拡張され、さらに主電源の他にスタンバイ・スイッチも増設されています。これにより、テレビ型やワイドパネル型の前モデルにおけるコントロールの貧弱さが全面的に改善されました。
しかし、「オリジナルの4×10インチBASSMANの性能表示だけでは、アンプの歴史の中でこのモデルが果たした特筆すべき役割を表現しきれない」と、前出の『The Soul of Tone』でWheelerは指摘しています。
まず、このアンプはパワフルかつラウドで、プレーヤーのタッチに敏感に応えてくれる。そのサウンドは素晴らしく、どの音域も美しく表現する。特に低音から中音にかけては、リッチな音色できらめくハーモニーを聴かせる。ボリュームを上げると、程よいディストーションがかかってサウンドに厚みが増し、音量を上げるに従ってよりクリーミーなサウンドを表現する。特に人気のギター、STRATOCASTER®との相性が抜群である。
ナローパネル型の4×10インチ・ツイード・アンプBASSMANは、その後5年間に電気回路構成が見直され、いくつかのバリエーションが展開されました。1954年秋の5D6モデルの後、5D6-A(1955年)、5E6(1956年)と続き、最強クラスのギターアンプと称される5F6-A(1958年〜60年)が世に出されました。
オリジナルのツイードBASSMANシリーズ5F6-Aモデルは、なぜ多くのプレーヤーたちからこれほどまでに絶賛され、コピーモデルも多く出たアンプとなったのでしょうか? 5F6-Aとその直前のモデル5F6にはミッドレンジ・コントロールが付加され、入力端子もハイ・ゲインとロー・ゲインにそれぞれ“normal”と“bright”が用意され、4つに増やされています。10インチ・スピーカー4本から出力されるサウンドはパワフルに空気を震わせ、Jensen P10Q スピーカーを採用した1959年モデルでは、さらにパワーアップされています。Wheelerは『The Soul of Tone』の中で、「これは最高のアンプである」と称賛しています。
プリアンプ・コンポーネント、出力真空管、電源、ネガティブ・フィードバック・ループ、パッシブ・トーン・コントロール、キャビネット、バッフル、スピーカーが全てパーフェクトに融合されている。
1962年、ロンドンでJim MarshallとKen Branはこのアンプの回路をコピーし、初めてMarshallギターアンプの基礎を作り上げました。
1950年代にツイード・アンプの時代が終わりを告げると、5F6-Aモデルは1960年に生産を終了しました。この頃よりFENDERアンプに使用される生地は、ツイードからTolexと呼ばれるプラスチック素材に変わっています。
1960年代、BASSMANはコンスタントに変化を遂げました。ツイードのナローパネル型モデル5F6-Aは、1960年にそれまでとは全く違ったバージョンの6G6として継承されました。1×12インチのピギーバック・モデルの6G6は、栗色のグリル・クロスにブロンドのTolexを使い、茶色いコントロールパネルがフロントにマウントされ、同じく茶色のハンドルが付けられています。ノブは、50年代の黒い“チキンハンド”型に代わり、白い円柱型が採用されました。これは、まもなく登場した2×12インチ型の6G6-Aにも継承されています。1962年後半にはグリル・クロスも栗色から小麦色になり、壊れやすかった茶色のハンドルも、1963年初頭には、強化された黒色のハンドルに付け替えられました。
次のBASSMAN 2×12インチ・モデルは、1963年の中旬にリリースされました。ブラックフェイスのコントロールパネルにナンバー表示付きの白い円柱型ノブが並び、白いTolexの滑らかなカバーに、金色に輝くグリルカバーと浮き彫りされたFENDERのロゴ(テール付)が、シャープな印象を与えています。ただ、このデザインは短命に終わりました。1964年の中頃までに、外観は黒いTolexのカバーと銀色に輝くグリル・クロスへと変更されました。当初はノブの色は白かったものの、すぐにナンバーとスカート付きの黒色のものに変更されています。AA864モデルは、それまでのモデルから電子回路が大幅に改良され、“presence”コントロールが廃止された代わりに“bright”と“deep”スイッチが追加されました。
黒いTolexのカバーと黒色のノブは、基本的に1967年のモデルまで引き継がれました。1965年にはFENDERグループ全体を、3大ネットワークのひとつであるCBSへ身売りし、1966年夏には、その後の運命を左右するソリッドステート回路を導入しています。BASSMANシリーズにもトランジスタ・アンプがラインナップされ、12インチのスピーカー3本と4ポジションの“Style”スイッチを搭載した105ワットの大出力ピギーバック・モデルが登場しました。このユニークなモデルは、1971年にFENDERが全トランジスタ・アンプの生産を終了するまで続きました。
FENDERは、トランジスタ・アンプと並行してチューブ・アンプの生産も継続し、1968年のカタログにはBASSMANに新たなチューブ・アンプのバリエーションが加わっています。従来モデルよりも75%巨大化したキャビネットに、12インチのスピーカーを2本だけ搭載したモデルでした。
1968年は、シルバーフェイスのアンプが登場し、BASSMANにも新たなモデルが加えられましたが、回路的には、ブラックフェイスの最終バージョンと同じものでした。1968年秋、キャビネットサイズは変えずに、2本のスピーカーを12インチから15インチへとサイズアップしています。1969年中頃にアルミ製の外装部品が取り払われ、その後シルバーフェイスのデザインは1980年代まで続きました。
同じく1969年には、出力100ワットを誇る、当時のFENDERとしては最高級クラスのSUPER BASSMAN IとSUPER BASSMAN IIを発表しました。ヘッドもキャビネットも従来モデルを超えるサイズで、SUPER BASSMAN Iには2×15インチのスピーカーを搭載したキャビネット1つ、SUPER BASSMAN IIにはキャビネットが2つ付き、どちらのモデルもヘッド部分は共通のものを使用しています。
SUPER BASSMANが生産されていた短期間(1969〜71年)の間にも、従来の50ワット・モデルも継続していました。1972年にこのBASSMAN 50モデルには15インチ・スピーカー2本が搭載され、さらに同年、10インチ・スピーカー4本の50ワットBASSMAN COMBOが登場しました。この背面がクローズされた4×10インチの初期モデルは、10年以上に渡って生産されました。また、SUPER BASSMANをベースにした、100ワット(4×12インチ)のピギーバック・スタイルのBASSMAN 100もリリースされています。
1977年、アンプの出力アップに伴い、50→70、100→135へと各ラインナップの名称も変更されました。1981年にはトランジスタ・アンプも復活し、15インチのスピーカー1本を搭載した小型のBASSMAN COMPACTが発表されています。翌1982年には小型チューブ・アンプBASSMAN 20(1×15インチ)もリリースされましたが、CBS時代の終わりが迫った1983年、FENDERは全てのBASSMANアンプの生産を終了しています。
1988年、社名にFENDERの名前が復活し、新たに3シリーズめとなるトランジスタ・アンプを発表。その中には60ワットのBASSMAN(1×15)も含まれます。
1980年代の後半にかけて緩やかに復活の兆しを見せてきたFENDERは、1990年代に入ってから自らのルーツに立ち返り、かつて称賛を受け商業的にも成功した1950〜60年代のチューブ・アンプの復刻に注力。そして1990年、1959年のBASSMAN 5F6-Aをベースとした復刻モデルをリリースました。さらに2004年には、復刻モデルの一環としてラッカー塗りのツイード・カバーの’59 Bassman LTDを発表。こちらのモデルには、先の復刻版で使用したEminenceではなく、10インチのJensenスピーカー4本が採用されました。
この頃FENDERはまた、BASSMANブランドのベース・ヘッドとコンボ・アンプも市場に投入しています。ただこれらの製品は1950〜70年代のBASSMANとは直接関係がなく、ただ同じブランド名を冠したものでした。
一連の復刻シリーズの締めくくりとして2009年、ベースに特化した4種類のBASSMAN TVシリーズ(1×10インチ、1×12インチ、1×15インチ、2×10インチ)をリリースしました。ツイード・カバーのテレビ型アンプは、1952年の初期型BASSMAN(1×15インチ)を思わせる外観ですが、中身は全く異なるものでした。
2015年、FENDERはデュアル・チャンネルのBASSMAN 500をリリースしました。このモデルは、世界標準となっているブラックフェイスのチューブ・プリアンプと、軽量な500ワットのクラスDパワーアンプを組み合わせ、フロントパネルとリアパネルには革新的な機能がふんだんに盛り込まれています。
FENDERは、BASSMANファミリーのニューモデルのひとつとして、多様性に富みポータブルかつパワフルなBASSMAN 800ベースアンプ・ヘッドをリリース。このモデルには、“vintage”と“overdrive”という2つの異なるチャンネルが用意され、クラシカルな外観で重さわずか7.7kgのシャーシに、FENDERチューブ・アンプの美しい音色が詰め込まれています。BASAMAN PRO NEOスピーカー・キャビネットとの相性がよく、その組み合わせにより、実に素晴らしいサウンドを楽しめるのです。
By: Jon Wiederhorn