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THE ROCK FREAKS VOL.3:TOKIE
アーティストとフェンダーによるケミストリーを写真で切り取るエキシビジョンシリーズ「THE ROCK FREAKS」。第3回目は、実力派女性ベーシストとして唯一無二の存在感を放つTOKIEが登場。
自分でい続けるためにベースを弾いている
日本を代表する女性ベーシスト・TOKIE。これまでに布袋寅泰、井上陽水、安室奈美恵、Def Techなどのサポートを務めてきただけではなく、自身のバンドとしてもAJICO、LOSALIOS 、さらにEXILEのTAKAHIROがボーカルを務めるACE OF SPADESと圧倒的な存在感を放つバンドのベーシストとして活躍してきた。そして何と言っても2000年、自身のプロデビューでもあるRIZEのベーシストとして音楽シーンに登場した時は衝撃で、多くのベーシストに影響を与えてきた。TOKIEの出現でベースプレイヤーの立ち位置が変わったと言っても過言ではないと思う。
そんなTOKIEがベースを始めたのは、中学校で入部したブラスバンド部。TOKIEが通う中学校のブラスバンド部は歴代全国大会に出場してきた名門で、同部による新入生歓迎演奏が素晴らしく、音楽に興味があったわけではなかったがとにかくその一員になりたいと思い入部した。ベースが弾けるわけではなかったが、自分が弾けそうな楽器としてたまたまコントラバスを選んだという。当時を振り返り「私のベーシストとしてのスキルのほとんどが、中学の部活動で出来上がったと言っても過言ではないんです」と語るように、名門ブラスバンド部では毎日血が滲むような練習をしたという。具体的には朝6時から早朝練習、お昼休みも練習し、放課後は夜8時頃まで猛練習。しかも入部当初は基礎練習の徹底反復。つらくなかったんですか?と聞くと「ベースを弾くこと自体が好きだったので苦ではなかったです」と飄々としている。しかもTOKIEには、練習に耐える目標があった。それがエレキベース。実は、そのブラスバンド部は3年生になるとベース担当はフェンダーのJazz Bassを弾けることができ、そのジャズベに憧れた。
ところが中学2年の時に父親の転勤があり、ジャズベを弾く前に転校することになってしまう。転校した後もベースを弾く熱は冷めず、部屋の壁にジャズベが載っているフェンダーのカタログをポスター代わりに貼るほどだった。そして、高校の合格祝いに念願のエレキベースを買ってもらう。ここから運命が大きく変わる。当初は地元の交響楽団でベースを弾くつもりでいたが、エレキを持っているTOKIEはロックバンドをやっている先輩から声をかけられ、ついにバンドに加入。ちなみに最初に加入したバンドはシーナ&ザ・ロケッツのコピーバンド。そこで初めてロックと出会い、バンドの面白さに取り憑かれていった。さらにキャリアを重ねるうちにプロミュージシャンのセッションにも呼ばれ、お金をもらえるようになる。そんな中、DEAD ENDのMorrieのライヴでニューヨークに行く機会があり、その縁でニューヨークでバンドも組み、あのCBGB(ニューヨークシティマンハッタン区のブリッカー通りにあった由緒あるクラブ)でもライヴを経験している。
Photo by Maciej Kucia (AVGVST)
ただ、収入が安定しているわけではなくアルバイトと両立させる日々。しかも今のように女性のプロベーシストが少なかった時代。当然親からは、ベースプレイヤーを生業にすることにも反対された。「もちろん、親は反対していましたけど、私の中でベースをやめるという選択肢はなかったですね。やめる理由もないし、自分でい続けるためにベースを弾いているのでやめることが想像できないんです。中学からずっとベースを弾いてきたので、やめたら何の取り柄もなくなってしまうので」と、自身とベースの関係について語ってくれた。
そして2000年、RIZEのベーシストとしてメジャーデビューを果たし、シーンに颯爽と登場。そのプレイスタイルが多くの人に影響を与えてきたことは先述の通り。だが、TOKIEは少し不服そうだ。「2000年のことをみなさんがよく言ってくださるのは嬉しいですけど、過去のことを褒められるのが苦手で、今の若い世代にも刺激を与えられる活動をしていきたいです」と。そしてこうも続けてくれた「女性ベーシストへの評価も正直、腑に落ちない感じです。昔はステージに華が欲しくて女性プレイヤーが起用されるケースが多かったので、いつでも音ありきで評価されて呼ばれる時代が来てほしいですね」と話すTOKIEの表情は、ライヴの時と同様凛としていた。
一方で、相好を崩しながら話してくれたことがある。最近使用しはじめたPrecision Bassについてと、自らの新しいバンド・HEAについて語ってくれた時だ。TOKIEと言えば、2003年に購入した64年製のヴィンテージのJazz Bassがトレードマークだ。そのTOKIEが今、フェンダーのPrecision Bassを弾いている。「最近、鮎川誠さんのセッションに呼ばれることがあるんですけど、鮎川さんにはプレベだなって思っていて、プレベを練習しています。シーナ&ザ・ロケッツは私のロックの第一歩だったので、曲を演奏する時は幸せですし、高校生の自分に自慢したいですね」と無邪気な笑顔を見せてくれた。そして、新バンドのHEA。バンドの詳細は公開されていないが、運命を感じるメンバーたちと出会いすでにレコーディングを進めているという。「歌詞も英語なので海外でも挑戦したいと思っています」と熱い口調で語ってくれた。
ベースを弾くことに関して、TOKIEには我欲のようなものがなく、とにかく無邪気だ。ニューヨークのCBGBで演奏した時のことも「ベースを弾けることが楽しかったので、下北沢のライヴハウスで演奏しているのと同じ感覚でした」と語っていた。話をしていると、ステージ上でのクールなTOKIEと、また別の穏やかで無邪気な表情のTOKIEに出会う。しかし、ベースプレイそのものの話になるといつも真剣だし、ベースに向かう姿勢はストイックそのものだ。キャリアもテクニックも十分なTOKIEだが、サポートに際しては徹底的に練習をするという。そしてライヴでは“後悔がない演奏”をしていると、自らのベースプレイ哲学を聞かせてくれた。
ストイックだから、美しくししなやかなベースが弾けるのか?
無邪気だから、美しくしなやかなベースが弾けるのか?
答えはその両方だと思った。だからTOKIEのようなベースシストはたくさんいるが、TOKIEが唯一無二な存在であることが変わることはないだろう。
TOKIE
中学時代、ブラスバンド部でコントラバスと出会い、低音/4弦の魅力の虜に。高校に入るとエレクトリックベースに持ち替え、バンド活動を始める。93年にNYへ渡り、イースト・ヴィレッジでアメリカやフランス出身のミュージシャンと共に「サルファー」を結成。95年までの活動の間、CBGBやニッティング・ファクトリーなどに出演した。96年の帰国後、さまざまなアーティストのサポートを開始。97年にはJESSE(Vo,Gt)、金子ノブアキ(Dr)とRIZEを結成。2000年にシングル「カミナリ」でメジャーデビュー。同年、UAと浅井健一らのAJICOに参加。2001年にRIZEを脱退、AJICO活動休止後は中村達也(BLANKEY JET CITY)率いるロックジャムバンドLOSALIOSに加入。2006年に青木裕(Gt)、城戸紘志(Dr) とエクスペリメンタルなインストロックバンドunkie(アンキー)を結成。2012年にはEXILEのTAKAHIRO、GLAYのHISASHI、THE MADCUPSEL MARKETSのMOTOKATSU MIYAGAMIとACE OF SPADESを結成。2013年にTHE LIPSMAXを結成。TOKIE個人としては、数々のアーティストのライヴやレコーディングに参加中。ポップミュージックからエネルギッシュでラウドなロックまでを自在にこなし、確かなテクニックと華のあるパフォーマンスで会場を湧かせている。近年かかわった主なレコーディングやライヴ/ツアーは、TK from 凛として時雨、GLIM SPANKY、Caravan、Tourbillon、Baroque、甲斐よしひろ、布袋寅泰、井上陽水、安室奈美恵、清春、ゆず、長澤知之、清竜人、Char、Superfly、安藤裕子、及川光博、Leyona、SUGIZO、Def Tech他多数。
› TOKIE Official Site:http://www.tokie-official.com/